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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)2477号 判決

控訴人

北村豊藏

外二〇名

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

橋本盛三郎

浜田次雄

松浦武二郎

松浦正弘

山下潔

被控訴人

明星自動車株式会社

右代表者代表取締役

橋本等

右訴訟代理人弁護士

小林昭

南出喜久治

大戸英樹

主文

原判決を取り消す。

控訴人らの、被控訴人に対する、昭和五九年七月一六日の被控訴人取締役会決議に基づく記名式普通額面株式三万株の新株発行差止請求及び同年八月二三日の被控訴人取締役会決議に基づく記名式普通額面株式一万株の新株発行差止請求の各訴えをいずれも却下する。

被控訴人が、昭和五九年九月一五日に、額面金額を一株金五〇〇円、発行価額を一株金三九〇七円、割当者を株式会社明星観光サービスとして行った、記名式普通額面株式一万株の新株発行を無効とする。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、昭和五九年七月一六日の取締役会決議に基づく、記名式普通額面株式三万株の新株発行をしてはならない。

3  被控訴人は、同年八月二三日の取締役会決議に基づく、記名式普通額面株式一万株の新株発行をしてはならない。

4  前項の請求が認められないときは、被控訴人が、同年九月一五日に、額面金額を一株金五〇〇円、発行価額を一株金三九〇七円、割当者を株式会社明星観光サービスとして行った、記名式普通額面株式一万株の新株発行を無効とする。

5  訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、控訴人らの負担とする。

第二  当事者双方の主張

次のとおり、附加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三枚目裏八行目の「1の各事実のとおりである。」を、「1で主張した各事実により、控訴人らは、株主たる地位を失った。」と改める。

2  同一五枚目裏四、五行目の記載を、「エムケイが、昭和五三年八月四日、控訴人西村光雄の所有していた被控訴人会社の株式全部を競落し、その引渡しを受けたこと、控訴人西村光雄及び同北村豊藏以外の控訴人一九名が、昭和五九年七月ころ、いずれも、その所有していた被控訴人会社の株式全部を控訴人北村豊藏に売却したことは、認めるが、その余の事実は、否認する。」と改める。

3  同一六枚目表二、三行目の記載を、「前記のとおり、被控訴人会社の定款には、株式の譲渡について取締役会の承認を必要とする旨の定めがあり、控訴人らは、いずれも、株主名簿上においては、原判決添付別紙株主明細表記載のとおりの株式を有する株主であるから、被控訴人会社は、控訴人らを株主として扱うべきである。」と改める。

4  同一七枚目表初行ないし同裏二行目までの記載を次のとおり改める。

「(1) 前述のとおり、商法二八〇条ノ二第二項は、株主以外の者に対し、特に有利な発行価額をもって新株を発行する場合には、株主総会の特別決議を要すると定めている。

(2) 被控訴人会社の株式は、非上場株で店頭取引もされていないところ、このような非公開株式について一般に採られている時価の算定方法である純資産価額方式及び類似業種比準方式の折衷によって、被控訴人会社の株式の時価を算定すると、前述のとおり、一株金八六二三円となる。

ところが、本件第二次新株発行は、株主でない明星観光サービスに対し、一株につき金三九〇七円の発行価額で新株一万株を発行するのであるから、株主以外の者に対して特に有利な発行価額で新株を発行する場合にあたり、株主総会の特別決議を要するのに、右決議がなく、法令に違反する。」

5  同裏四、五行目の記載を次のとおり改め、六行目の順号(3)を(2)と改める。「(1) 被控訴人会社代表取締役橋本等及び同鈴木勇ら被控訴人会社役員の昭和五一年三月当時及び現在における所有株式数並びにその株主全体の所有株式に対する持株割合は、前記第一次新株発行差止請求の請求原因において述べたとおりである。」

6  同裏八行目の「鈴木勇」の次に、「が、代表取締役を兼任し、同会社の発行済株式数は、三万株であるが、このうち九五〇〇株を被控訴人会社が所有し、五五〇〇株ずつを橋本等及び鈴木勇が各所有していて、明星観光サービスは、同人ら」を加入し、同一八枚目表四行目の順号(4)を(3)と、同一八枚目裏初行の順号(5)を(4)と各改める。

7  同一九枚目表三行目と四行目との間に、改行して次のとおり加入する。

「明星観光サービスは、本件第二次新株発行につき、払込期日までに払込みをせず、したがって、新株発行の効力が、生じていないことは、後述のとおりであるが、仮に、新株発行の効力が生じ、右新株発行差止請求が認容されないとしても、右新株発行には、次のとおりの無効事由がある。」

8  同一九枚目表五行目の記載を次のとおり改める。

「本件第二次新株発行は、前述のとおり、株主以外の明星観光サービスに対し、特に有利な発行価額で新株を発行する場合にあたるのに、株主総会の特別決議を経ていない瑕疵がある。」

9  同一九枚目表七行目の記載を次のとおり改める。

「本件第二次新株発行は、前述のとおり、著しく不公正な方法による新株発行である。」

10  同二〇枚目表一〇行目ないし同裏三行目までの記載を次のとおり改める。

「前記本件第一次新株発行差止請求について述べたとおり、控訴人らは、株式の競落あるいは譲渡によって、株主でなくなっており、本件第二次新株発行差止請求あるいは右新株発行無効の訴えについて、いずれも当事者適格がない。」

11  同二一枚目表七行目の記載を「本件第二次新株発行差止の訴えは、不適法であり、それが補正されない限り、訴えの追加的変更は、許されない。」と改める。

12  同二一枚目裏四行目と五行目の間に改行して次のとおり加入する。

「控訴人らは、被控訴人が本件第二次新株発行をしてから一年以上も経過してから、新株発行の事実を主張したことを信義則に反すると主張するが、被控訴人は、新株発行の日から六か月を経過した昭和六〇年三月一五日以降でないと、右事実を抗弁として主張できないのであって、被控訴人は、昭和六〇年七月一八日の原審第七回本件口頭弁論期日に、右新株発行の事実を立証するための証拠を提出し、同年一〇月二九日に、右新株発行を理由とする、第二次新株発行差止の仮処分取消申立(京都地方裁判所昭和六〇年(モ)第二〇八三号)をし、さらに、同月三一日の原審第八回本件口頭弁論期日に、右新株発行により第二次新株発行差止請求の訴えの利益が消滅したことを主張した。

被控訴人は、本件第二次新株発行の事実を故意に隠したことはなく、むしろ、それを当然の前提としていたものである。

即ち、被控訴人は、昭和五九年九月一〇日、本件第二次新株発行差止の保全事件である京都地方裁判所昭和五九年(ヨ)第八五八号仮処分事件(以下、「第二次仮処分」という。)の審尋期日において、何故、第一次新株発行差止の仮処分(同裁判所同年(ヨ)第六九三号、以下、「前件仮処分」という。)について異議を申し立てずに、第二次新株発行をするのかという裁判所の質問に対して、前件仮処分については、その趣旨を尊重して、新株の発行をしなかったが、資金需要が逼迫しているため、敢えて、本件第二次新株の発行を断行する必要があると陳述しており、同日付被控訴人の陳述書にも同旨の記載がある。

また、本件第一次新株発行差止請求事件(甲事件)の昭和五九年一〇月一九日付被控訴人の答弁書には、割当者の払込がなかった事実を主張しているのに対し、本件第二次新株発行差止請求事件(乙事件)の同日付被控訴人の答弁書には、これと同様な主張を一切していないという明確な差異があり、このことからも本件第二次新株発行があったことは明かであり、控訴人らが、右事実を知らなかったとすれば、悪意と同視しうる重大な過失がある。

さらに、本件第二次新株発行による増資の登記が直ちにされなかったのは、京都地方法務局の登記官が、仮処分違反の事実は、商法二八〇条ノ一五の新株発行無効原因に該当し、商業登記法二四条一〇号の登記申請却下事由にあたるとの見解を示したため、右仮処分が取り消されるまで登記申請をしなかったことによるものである。

被控訴人及び明星観光サービスの会計処理上の取扱をみても、明星観光サービスは、株式払込金を借方勘定に投資有価証券として計上しており、これに対応する被控訴人の貸方勘定は、前受金として処理されているが、その摘要欄に記載があるように、払込が割当人明星観光サービスからあったが、増資差止仮処分により増資登記を保留したため、資本組入れを行わずに会計処理したまでである。

13  同二一枚目裏七行目の「前記甲事件の」から九行目末尾までの記載を「前記第一次新株発行差止請求について、控訴人らが主張したとおりである。」と改める。

14  同裏一〇行目から一一行目にかけて「(一)は否認する。」とあるのを、「否認する。仮に、新株発行がされたとしても、」と改め、同二二枚目表八行目の記載を削除する。

15  同二二枚目裏五行目の「その余は認める。」を「本件訴えの変更の申立は、昭和六〇年一二月二日にされたことを認める。」と改める。

16  同二三枚目裏四行目の「(3)のうち」を「(2)のうち」と改め、同裏四行目の「(2)」及び同八行目の「(3)」を削除し、同八行目の「(4)」を「(3)」に改め、同二四枚目表初行の「(5)」を「(4)」に改める。

17  同二四枚目表九行目の記載を「第一次新株発行差止請求の七(抗弁)の3(株主権の濫用)として主張したとおりである。」と改める。

18  同表末行の記載を「第一次新株発行差止請求の六(抗弁に対する認否)の3として主張したとおりである。」と改める。

第三  証拠〈省略〉

理由

一第一次新株発行差止請求について

被控訴人会社が、昭和五九年七月一六日に開催された取締役会において、左記の要領による新株発行を決議したことは、当事者間に争いがない。

(1)  発行新株数  記名式普通額面株式三万株

(2)  額面金額  一株につき金五〇〇円

(3)  発行価額  一株につき金一〇〇〇円

(4)  申込期日  昭和五九年八月八日

(5)  払込期日  同月九日

(6)  割当者及び割当株式数  株式会社明星観光サービス

二万四五〇〇株

佐川一雄

五五〇〇株

控訴人らは、右新株発行については、商法二八〇条ノ二第二項に違反し、著しく不公正な方法による新株発行である等の理由があるので、株主として、その差止を求めるというのであるが、右差止請求権は、新株発行までに予防的に行使される救済手段であって、新株発行が行われてしまうか、行われないことに確定した場合には、たとえ、それが訴訟係属中であっても、差止請求権は、目的を失い、その訴えは、訴えの利益を欠き不適法なものとなると解するのが相当である。

そして、新株の割当を受けた者が、申込期日までに新株引受の申込をし、払込期日までに発行価額を払い込んだときには、新株の発行は、その翌日に効力を生じ、払込期日までに払込をしないときには、その権利を失うことになるから(同法二八〇条ノ九第二項)、いずれにしても、右払込期日の経過により、差止請求の訴えは、訴えの利益を失うことになるというべきである。

いま、これを本件についてみるに、〈証拠〉によれば、被控訴人会社は、本件第一次新株発行差止請求権を被保全権利とする右新株発行差止の仮処分決定(京都地方裁判所昭和五九年(ヨ)第六九三号仮処分事件)が、昭和五九年八月六日にあり、右新株の発行価額が一株につき一〇〇〇円であるにもかかわらず、株主総会の特別決議を経ていないことから、新株の発行をいま一度検討しなおすこととし、割当を受けた明星観光サービス及び佐川一雄の諒承を得たうえ、右第一次新株発行をとりやめることにしたので、明星観光サービス及び佐川は、払込期日までに新株の払込をしなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、明星観光サービス及び佐川は、払込期日の経過により、本件第一次新株発行における割当者としての権利を失ったものというべく、したがって、その余について判断するまでもなく、右新株発行差止請求の訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものとして却下を免れない。

二本件第二次新株発行差止請求について

被控訴人会社が、昭和五九年八月二三日に開催された取締役会において、次の要領による新株発行を決議したことは、当事者間に争いがない。

(1)  発行新株数  記名式普通額面株式一万株

(2)  額面金額  一株につき金五〇〇円

(3)  発行価額  一株につき金三九〇七円

(4)  申込期日  昭和五九年九月一三日

(5)  払込期日  同月一四日

(6)  割当者、割当株式数  株式会社明星観光サービス

一万株

控訴人らは、右新株発行についても、商法二八〇条ノ二第二項に違反し、著しく不公正な方法による新株発行である等の理由があるので、株主として、その差止を求めるというのであるが、前記のとおり、右差止請求権は、新株発行までに予防的に行使される救済手段であって、新株発行が行われてしまった場合には、たとえ、それが訴訟係属中であっても、差止請求権は、目的を失い、差止請求の訴えは、訴えの利益を欠き不適法なものとなると解するのが相当である。

〈証拠〉によると、本件第二次新株発行決議において、新株の割当を受けた明星観光サービスは、申込期日である昭和五九年九月一三日に右新株引受の申込をし、同日、払込取扱銀行である株式会社京都銀行に三九〇七万円を払い込んだことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

もっとも、〈証拠〉によると、被控訴人は、会計処理上、明星観光サービスの右払込金を前受金として受領し、昭和五九年一二月三一日付けで右前受金と被控訴人の明星観光サービスに対する未収運賃債権三九〇七万円と相殺勘定にし、明星観光サービスも右払込金と自社の被控訴人に対する買掛金債務八三五一万〇三〇〇円とを相殺勘定にすることにより払込金の返還を受けたことにしていることが認められるが、各成立につき争いのない乙第七九号証、第八一ないし第八三号証、原審証人中西正勝の証言により各成立の認められる乙第八四号証の一、二、第八五、第八六号証並びに右中西の証言によれば、本件第二次新株発行についても、昭和五九年九月一二日付けをもって、控訴人北村豊藏を申請人とする右新株発行差止の仮処分決定(京都地方裁判所昭和五九年(ヨ)第八五八号)があり(右事実は当事者間に争いがない。)、また、被控訴人は、右新株発行による増資の登記を申請しようとしたが、京都地方法務局の登記官は、新株発行差止の仮処分があるのにそれに反して行われた新株発行は無効であるとの見解をもとにこれを受理しようとしなかったので、被控訴人は、右仮処分に対する異議の申立(京都地方裁判所昭和五九年(モ)第一五九〇号)及び取消の申立(同裁判所昭和六〇年(モ)第二〇八三号)をするとともに、仮処分に違反して行われた右新株発行の効力が否定されるかもしれない場合のあることを考えて、両会社の会計帳簿上の処理として採られた措置であるにとどまり、真実、払込金が被控訴人から明星観光サービスに返還されたものではないこと、したがって、昭和六一年二月二七日に右仮処分異議事件の判決によって、仮処分が取り消されると、被控訴人は、同年六月一一日付けをもって右新株発行による増資の登記を経由し、また、右会計帳簿の処理を元に戻して、明星観光サービスからの払込金を資本金及び資本準備金に組み入れていることが認められ、これらの事実を併せ考えると右会計帳簿上の処理があるからといって、前記明星観光サービスからの新株引受金の払込がされた事実の認定が左右されるものともいえない。

なお、〈証拠〉によれば、被控訴人会社の昭和六〇年六月二二日に開催された被控訴人会社の第二七期定時株主総会において、被控訴人会社役員は、発行済株式数を七万株であるとして本件第二次新株発行による一万株を加算して発表していないことが認められるが、それが、どのような意図のもとになされたものであるかは暫く置き、右各証拠によれば、七万株は登記簿上のものであるとの限定を付していることが認められることを勘案すると、右事実も未だ前記払込のあった事実の認定を左右するに足りないというべきである。

以上の事実によれば、本件第二次新株発行は既に完了していることが明かであるから、その差止請求の訴えも、訴えの利益を欠く不適法なものとして、その余についての判断をするまでもなく却下を免れない。

三第二次新株発行無効の訴え(予備的請求)について

1  当事者適格

被控訴人が、昭和三三年に設立された株式会社で、タクシー事業及び貸切バス事業等を営み、資本の額は、三五〇〇万円、会社が発行する株式の総数は、一〇万株、発行済株式の総数は、七万株(一株の額面金額は、五〇〇円)であること、控訴人らは、いずれも被控訴人会社設立のころからの株主であり、昭和五七年当時、原判決添付別紙株主明細表記載のとおりの株式を所有していたこと、被控訴人会社が、昭和五九年八月二三日開催の取締役会において、第二次新株発行決議をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

本訴は、これを要するに、仮に右第二次新株発行がされたとすれば、控訴人らは株主として、右新株発行の無効を請求するというのである。

訴外エムケイ株式会社が、昭和五三年八月四日、京都地方裁判所(執イ)、第七三八号競売事件において、控訴人西村光雄が所有していた被控訴人会社の全株式を競落し、その引渡しをうけたこと、控訴人西村光雄及び同北村豊藏を除くその余の控訴人ら一九名が、昭和五九年七月ころ、いずれもその所有していた被控訴人会社の全株式を控訴人北村豊藏に売却したことは当事者間に争いがない。

また、〈証拠〉を総合すると、控訴人北村豊藏は、右他の控訴人から護渡を受けた被控訴人会社の全株式と控訴人北村豊藏自身が従来から所有していた被控訴人会社の株式全部をエムケイ株式会社またはその代表取締役である青木定雄に譲渡したことが窺われなくはない。

しかしながら、成立に争いのない甲第四号証によれば、被控訴人会社の株式の譲渡については、定款上、取締役会の承認を要するとの定めがあることが認められ、右認定に反する証拠はない。このように、商法二〇四条一項但し書に基づき、定款に、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがおかれている場合に、取締役会の承認を得ないでされた株式の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから、会社は、右譲渡人を株主として取り扱う義務があるものというべきであり、その反面として、譲渡人は、会社に対しては、なお、株主の地位を有するものというべきである。そして、譲渡が競売手続によってされた場合の効力についても、任意譲渡の場合とこれを別異に解すべき実質的理由はないから、前記と同様に解すべきである。

そうすると、控訴人らの株式の譲渡関係が前記認定のとおりであるとしても、控訴人は、被控訴人に対し、自己がなお右株主であると主張することができ、被控訴人も控訴人らを株主として取り扱う義務があるものというべきであり、したがって、控訴人らが、株主としての地位を失ったから原告適格がないとする被控訴人の本案前の抗弁は採用することができない。

2  第二次新株発行無効の訴えの予備的追加的変更

控訴人らが、原審における昭和六〇年一二月二日提出の同日付準備書面によって、仮に、第二次新株発行差止請求の訴えが、訴えの利益を欠く不適法なものであれば、右新株発行無効の訴えを予備的に追加する旨の訴えの変更の申立をしたことは、記録上明かである。

被控訴人は、控訴人らの右訴えの変更は、民訴法二三二条一項にいう請求の基礎に同一性がなく、また、本件第二次新株発行差止の訴えは不適法な訴えであるところ、不適法な訴えに対する訴えの追加的変更は許されないと主張する。

しかしながら、本件第二次新株発行差止の訴えと、右新株発行無効の訴えとは、ともに、本件第二次新株発行によって、不利益を受ける既存の株主の利益保護のため、新株発行手続の瑕疵を主張して事前または事後に新株の発行を否定しようとするものであって、両請求の主要な争点は共通であり、新株発行差止請求についての訴訟資料ないし証拠資料を新株発行無効請求の審理に利用することを期待できる関係にあり、かつ、両請求の利益主張が、法律関係を捨象した社会生活上は、同一または一連の紛争に関するものと認められるから、両請求の間には、請求の基礎の同一性があるというべきである。なお、右訴えの変更によって、追加された新株発行無効の訴えの審理のために、著しく訴訟手続きが遅滞するものとも認められない。

また、旧訴が訴えの利益を欠き不適法である場合においても、その訴えが継続した後においては、口頭弁論の終結に至るまで、新訴と旧訴の請求の基礎が同一で、その他の法定の要件をも具備する限り、新訴の追加的変更は、許されるものと解するのが相当である。

したがって、本件第二次新株発行無効の訴えの予備的追加的変更は、新旧両訴の間に請求の基礎の同一性があり、その変更の態様においてもこれを否定すべき理由を見いだすことができないから、被控訴人のこれらの点に関する本案前の抗弁は理由がなく、採用することができない。

3  第二次新株発行無効の訴えの出訴期間

商法二八〇条ノ一五によると、新株発行の無効は、株主、取締役、または監査役(資本金一億円以下の会社については、除かれる。)に限り、かつ、新株発行の日から六ケ月以内に会社に対する訴えによってのみこれを主張することができるものとされている。なお、右新株発行の日とは、新株発行の効力発生の日である、新株の払込期日の翌日をいうものと解するのが相当である。

ところで、本件第二次新株発行については、その払込期日の翌日は、昭和五九年九月一五日であり、同日午前零時から新株発行の効力を生じ、初日を算入して出訴期間を算定すると、昭和六〇年三月一四日の経過をもって満了するところ、控訴人らが、本件第二次新株発行差止の訴えに右新株発行無効の訴えを追加的に変更する旨の準備書面を原審において提出したのは、右出訴期間経過後の昭和六〇年一二月二日であることは、前記のとおりである。

思うに、訴えの変更は、変更後の新請求については、新たな訴えの提起にほかならないから、右訴えにつき出訴期間の制限がある場合には、行政事件訴訟法二〇条のような特別の規定がない限り、右出訴期間の遵守の有無は、訴えの変更前後の請求の間に、訴訟物の同一性があると認められるときか、又は、両請求の間に存する関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときを除き、右訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきものである。

いま、これを本件についてみるのに、控訴人らが、本件第二次新株発行無効請求に訴えを変更したのは、右新株発行の日から一年以上を経過した後のことであり、また、本件第二次新株発行の差止請求と右新株発行無効請求との間に訴訟物の同一性を認めることができないことは、明かであるから、本件第二次新株発行無効の訴えにつき、出訴期間の遵守があったというためには、右にいう特段の事情の存在が認められることが必要である。

ところで、前記認定に係る事実、弁論の全趣旨及び本件記録によれば、被控訴人の本件第二次新株発行に係る訴えの提起及びその変更の経緯は、次のとおりである。

(1)  被控訴人は、昭和五九年七月一六日開催の取締役会において、本件第一次新株発行決議をしたところ、控訴人らは、同月三〇日、原審裁判所に右新株発行差止請求の訴え(京都地方裁判所昭和五九年(ワ)第一四五八号)を提起するとともに、右新株発行差止の仮処分の申立(同裁判所同年(ヨ)第六九三号)をし、同年八月六日、右新株発行差止の仮処分決定があった。

(2)  被控訴人は、右仮処分について異議等の不服申立をすることなく、同年八月二三日開催の取締役会において、あらためて本件第二次新株発行決議をしたので、控訴人らは、同年九月二〇日、原審裁判所に右新株発行差止の訴え(同裁判所同年(ワ)第一八〇八号)を提起するとともに、控訴人北村豊藏は、右新株発行差止の仮処分の申立(同裁判所同年(ヨ)第八五八号)をし、同年九月一二日、右仮処分決定があり、被控訴人は、その異議(同裁判所同年(モ)第一五九〇号)を申し立てた。

(3)  被控訴人は、第一次新株発行決議については、発行価額の点において、安価に過ぎるとの懸念があったので、割当者の了解を得たうえ、これを実行しないこととし、あらためて第二次新株発行決議をしたが、右新株発行については、その差止の仮処分があったのに、右仮処分に違反して、割当を受けた明星観光サービスからの新株払込金の支払いを受け、新株発行が実行された。

右第一次、第二次新株発行差止請求事件は、昭和五九年一〇月二三日の原審第一回口頭弁論期日において、併合され、原審裁判所において仮処分異議事件とともに審理が続行されていたところ、被控訴人は、第一次新株発行差止請求については、昭和五九年一〇月二三日の原審第一回口頭弁論期日に陳述された答弁書において、「右新株発行は、その申込期日前に、控訴人らの申立に係る同年八月六日付新株発行差止仮処分決定(京都地方裁判所同年(ヨ)第六九三号)により、差し止められ、割当者らは、右決定を尊重し、申込期日に申込をせず、かつ、払込期日に払込もしなかったため、商法二八〇条ノ九第二項によって割当の権利を失ったので、本件第一次新株発行決議は失効し、以後、右新株発行決議による新株発行は不可能となり、右新株発行差止請求の訴えの利益はなくなった。」との趣旨の主張をしているが、第二次新株発行については、前記のとおり、割当を受けた明星観光サービスの払込により、昭和五九年九月一五日に既に新株発行の効力が生じているのに、前記仮処分異議事件においては、昭和六〇年一〇月二九日付の仮処分取消申立書により、本件訴訟においては、同月三一日の原審第八回口頭弁論期日に、陳述された同日付準備書面により、右事実を主張するまで(右仮処分異議事件における主張の点については当事者間に争いがない。)、本件訴訟においても、前記仮処分異議事件においても、これを明らかにせず、第二次新株が発行されていないことを前提とした主張をし、これを維持していたので、控訴人らは、右第二次新株発行の事実を知らなかった。

(4)  控訴人らは、右控訴人の主張に接することにより、初めて本件第二次新株発行の払込がされたことを知り、その差止請求が認められない場合に備えて、前記のとおり、昭和六〇年一二月二日、右差止請求の訴えを本件新株発行無効の訴えに予備的追加的に変更する旨の申立をした。

控訴人らは、右差止請求の訴えの請求原因である商法二八〇条ノ二第二項違反及び著しく不公正な方法による新株発行の事実を新株発行無効原因としても主張している。

以上の事実関係によれば、本件第二次新株発行差止請求の訴えは、新株発行前に、それが発行されることによって持株比率の減少等の不利益を被ることになる控訴人ら従来の株主の利益保護のため、控訴人らにより、予防的にこれを阻止せんとして提起されたものであり、単に、事前の新株発行手続きを差し止めれば足りるという意思の表明にとどまるものではなく、将来、新株の発行が行われてしまった場合には、右新株発行の効力を争う意思の表明としての性格をも有するものといわざるを得ないのみならず、その各差止、無効の訴えの請求原因として主張する事由も、前後同一のものがあるうえ、控訴人らが、昭和六〇年一〇月二九日ないし同月三一日に、被控訴人の主張によって、本件新株の発行が既に行われたことを初めて知るに至ったことについては、無理からぬ事情があったことを勘案すると、本件第二次新株発行無効の訴えは、出訴期間の関係においては、右新株発行差止請求の訴えの提起のときから既に提起されていたものと同様に取り扱うのが相当であり、出訴期間の遵守について欠けるところがないものと解するのが相当である。

被控訴人のこの点に関する主張も、採用することができない。

4  商法二八〇条ノ二第二項違反

控訴人らは、本件第二次新株発行は、商法二八〇条ノ二第二項に違反しているから、無効であると主張する。

しかしながら、株式会社の代表取締役が、新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して、特に有利な発行価額をもって発行されたものであっても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解するのが相当である。けだし、授権資本制度を採る商法が、新株発行の権限を取締役会に委ね、ただ、株主以外の者に対し、特に有利な発行価額で新株を発行する場合には、その者に発行することのできる株式の額面、無額面の別、種類、数及び最低発行価額について、株主総会の特別会議を必要としているにすぎないこと等に徴すると、新株発行は、むしろ、会社の業務執行に準ずるものとして取り扱われていると解するのが相当であり、右株主総会の特別決議を経なければならないとの要件も、取締役会の権限行使についての内部的要件であって、取締役会の決議に基づき、代表権を有する代表取締役により、既に発行された新株の効力については、会社内部の手続の欠缺を理由にその効力を否定するよりも、右新株の取得者及び会社債権者の保護等の取引の安全を重視して、これを有効とするのが相当であるからである(最高裁判所昭和四〇年一〇月八日第二小法廷判決・民集一九巻七号一七四五頁、同昭和四六年七月一六日第二小法廷判決・判例時報六四一号九七頁参照)。

控訴人らのこの点に関する主張は採用することができない。

5  著しく不公正な方法による新株の発行

前記認定に係る事実に、〈証拠〉を総合すると、次のとおり認められる。

本件第二次新株発行の割当を受けた明星観光サービスは、被控訴人の系列会社であって、被控訴人会社の代表取締役である橋本等及び鈴木勇が代表取締役を兼任している。

一方、被控訴人会社においては、以前から、代表取締役橋本等、同鈴木勇ら現役員並びにこれを支持する株主と、これと反対の立場をとる控訴人ら株主とが、二派に分かれて争い、橋本、鈴木ら現役員派は、会社の事業資金調達を兼ねて、新株の発行をしたうえ、これを自己と意を通じた第三者に割り当てることによって、自派に同調する株主の持株数を増やし、会社に対する支配権を獲得しようとして、新株発行に及び、これに反対する控訴人ら株主は、本件第二次新株発行無効の訴え以外にも、新株発行差止請求訴訟あるいは新株発行無効請求訴訟あるいは新株発行無効請求訴訟を提起して、争っている。本件第二次新株発行請求及びその無効請求訴訟もこれら両派の抗争の一環にほかならない。

以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

思うに、株式会社において、真に資金調達の必要がある場合には、その調達をどのような方法で行うかは、取締役会ないし代表取締役の裁量に委ねられているものといわなければならず、その採られた方法によって、他方で、反対派株主の有する持株比率維持の利益すなわち支配関係上の利益が害されることになっても、右会社の資金調達の利益と株主の持株比率維持の利益のいずれか一方に、絶対的優越性を認めるのは相当でなく、これらの利益が実質的に対立するときは、取締役会ないし代表取締役が、新株発行をするに至った動機のうち、支配関係上の争いに介入しようとする動機が他の動機に優越し、それが主要なものとなっているとき、株主は、会社が「著しく不公正なる方法」によって新株を発行しようとし、それにより、株主の利益が害される虞があるものと主張して、右新株発行の差止請求(商法二八〇条ノ一〇)ができるものというべきであるが、新株発行の効力が生じた後においては、これと異なり、新株を割り当てられ、その引受をした第三者、資本の増額を信頼した会社債権者の取引の安全を重視し、会社において資金調達の必要が全く無いのに、ただ、反対派株主の持株比率を減少して、自派の会社支配を確固たるものにする目的のために、意を通じた第三者に新株の割当をするなど、株式会社制度の本質にもとり、取締役会に与えられた新株発行権の濫用にわたるような特段の事情がない限り、同法二八〇条ノ一五所定の新株発行無効事由とはなりえないものと解するのが相当である。

いま、これを本件についてみるに、本件新株発行は、前記認定のとおり、被控訴人会社の取締役会が、現役員派に反対する控訴人ら一派の株主の持株比率を減少させて、会社における自派の支配権を確立しようとする動機のもとに行われたものであることは否定することはできないが、なお、会社の資金調達の必要が全く無かったとは認められず、その他前記特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はない。

控訴人らのこの点に関する主張も採用することができない。

6  新株発行差止の仮処分違反

控訴人らは、本件第二次新株発行は、その差止の仮処分に違反するものであるから無効であると主張するところ、商法二八〇条ノ一五第一項が、新株発行無効の訴え提起期間を限定している趣旨から考えると、新株発行の日から六ケ月の期間経過前においては、既に提起した訴えにおいて、新たな無効原因を追加することも差し支えないが、右の期間経過後は、原則として、新たな無効原因を追加できないものと解するのが相当であり、本件のように、新株発行差止請求の訴えの提起の時に、新株発行無効の訴え提起があったのと同様に取り扱うのが相当であると認められる場合においても、新株発行の事実を知った時から六ケ月の期間経過後は、もはや、新たな無効原因を追加することはできないものというべきである。

いまこれを本件についてみるに、控訴人らが本件第二次新株の発行を知ったのは、前記のとおり、昭和六〇年一〇月二九日ないし同月三一日であるところ、控訴人らは、その提出にかかる前記同年一二月二日付準備書面において、本件第二次新株発行の事実自体を争っているが、それと同時に、「被控訴人が裁判所の命じる仮処分決定は当然にこれを遵守し、よもや仮処分決定に違反し、新株を発行しているなどとは思いもしなかった。」と主張し(右準備書面第二の六参照)、仮に本件第二次新株発行が事実としても、「右仮処分決定に違反する新株発行は効力を生じないものであるが、仮に右新株発行が事実であり且つ効力を生じている場合」には、本件第二次新株発行は無効とする判決を求める旨の主張(右準備書面第一の二参照)をしていることは、本件記録上明らかである。したがって、控訴人らは、右準備書面で、本件第二次新株の発行は、その差止の仮処分に違反して発行されたとの事実を予備的に主張していると認めるのが相当であり、かつ、それが無効であるか否かは法律問題であるから、控訴人らにおいて、本件第二次新株発行がその差止の仮処分に違反することを理由にして無効である旨の主張を明確にしていなくても、裁判所が右仮処分違反による無効の点を取上げて判断することは、必ずしも弁論主義に反するものではないし(このことは、本件記録上明らかなように、被控訴人自ら昭和六〇年一〇月三一日付及び同年一二月一九日付準備書面で、「本件第二次新株の発行が、その差止の仮処分に違反して無効であるとしても、右新株発行の無効は、その発行の日より六か月以内に訴えをもってのみ主張できる」旨の主張をしているところからも、「相手方の援用しない自己に不利益な陳述」に関する法理により、肯定される。)、また、その後、前記無効原因主張の期間経過後でも、控訴人らが前記の如く、さきに本件第二次新株の発行は、その差止の仮処分に違反して発行されたとの事実を主張している以上は、右事実による無効を主張して、これを新株発行の無効原因とする旨を明確にすることは、もとより差支えないと解すべきである。よって、本件では、所定の期間内に右仮処分に違反する新株発行無効の主張があったものとみるのが相当である。

次に、控訴人北村豊藏の申立に基づき、昭和五九年九月一二日に、本件第二次新株発行差止の仮処分決定があったこと、及び、その後右仮処分に違反して本件第二次新株の発行がなされたことは、前記に認定したところから明らかである。

ところで、差止の仮処分に違反してなされた新株の発行を有効であると解するときは、法令等に違反して新株を発行した場合における取締役の損害賠償責任は、株主からの差止請求の有無を問わずに認められるから、株主が右損害賠償をするためにわざわざ差止請求をする必要はなく、したがって、商法二八〇条ノ一〇に基づく差止請求権は、単に取締役の注意を換起する事実上の行為と大差がないこととなって、右商法二八〇条ノ一〇が株主に差止請求権を一つの権利として認めた法の趣旨が没却されることになるし、また、右仮処分違反の新株発行を有効とすることは、裁判所が法定の手続に則って適法に発した仮処分命令の実効性が、仮処分債務者の恣意的な違反行為によって失われ、右仮処分債務者の仮処分命令を無視する違反行為を容認する結果を招くことになって、裁判による法秩序の維持という司法制度の目的にも反することになるから、差止の仮処分に違反する新株の発行は、無効であると解するのが相当である。

殊に、本件では、〈証拠〉によれば、被控訴人は、非上場の未公開株式会社であることが認められ、また、前記認定の諸事実から明らかな通り、本件第二次新株の引受人は、被控訴人の系列会社である明星観光サービスのみであって、その外に引受人はなく、かつ、明星観光サービスの代表取締役は、被控訴人会社の代表取締役である橋本等、同鈴木勇が兼任しているから、明星観光サービスは、本件第二次新株発行がその差止の仮処分に違反して行なわれるものであることを熟知しながら、その引受をして、株式払込金を払込んだこと、被控訴人会社では、本件第二次新株発行の後、これによる増資の登記申請をしようとしたが、登記官が本件第二次新株発行は、前記差止の仮処分に違反するものであるから無効であるとの見解の下に、これを受理しようとしなかったこと、そこで、被控訴人は、右仮処分違反を理由に新株発行の効力が否定される場合のあることを考えて、帳簿上は、当初、明星観光サービスの払込金を前受金として処理していたこと(〈証拠〉によれば、被控訴人会社及び明星観光サービスが、経理上、正規の株式払込金として処理したのは昭和六一年四月一〇日であることが認められる。)などの諸事実に照らして考えると、前述のように、差止の仮処分に違反した本件第二次新株の発行を無効と解しても、その引受人である明星観光サービスの権利あるいはその他取引の安全を害することはないというべきである。

7  したがって、本件第二次新株発行は無効である。

なお、被控訴人は、本件第二次新株発行の無効を求める控訴人らの請求は、権利の濫用であって許されないと主張するが、本件における全証拠によるも、右権利濫用の事実を認めることはできないから、被控訴人の右主張は採用できない。

そうすると、本件第二次新株発行の無効を求める控訴人らの予備的請求は、理由があるから、これを認容すべきである。

四以上のとおりであって、右の結論を異にする原判決は、相当でないので、これを取り消し、控訴人らの本件新株発行差止請求に係る訴えをいずれも却下し、控訴人らの本件新株発行無効請求をいずれも認容することとし(なお、原判決は、控訴人西村光雄の第二次新株発行無効の訴えを当事者適格がないとして、却下しているが、右訴えは、請求の趣旨及び原因において、他の控訴人らの右新株発行無効の訴えと全く同じであって、原審裁判所は、これら控訴人の当事者適格を肯認したうえ、請求の当否について事実審理をし、本案判決をするに熟する程度に弁論及び証拠調べをしていることが、記録上明かである。この様な場合にも、請求の当否について原審裁判所の判断を経ていないことを理由に、事件を原審裁判所に差し戻してその判断をさせるのは、訴訟経済にも反し、相当でないというべきである。)、訴訟費用の負担につき、民訴法第九六条、第九二条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官東條敬 裁判官横山秀憲)

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